地方議会での意見書採択運動中に、議員などから寄せられた質問にQ&A形式でお答えします。(女性差別撤廃条約実現アクション 2021年11月)
Q1 女性差別撤廃条約の正式表記は女子差別撤廃条約ではないでしょうか?
A 日本の公定訳は「女子」です。日本では公定訳を修正するにはあらためて国会を通す必要があります。しかし、1990年代には労働法など法律の表記が「女子」から「女性」に変わり、「国立婦人教育会館」も「国立女性教育会館」に変わりました。メディアでもほとんど「女性」が使われるようになっています。
Q2 女性差別撤廃条約での「差別の定義」はどうなっていますか?
A 条約は、第1条で「女性差別の定義」をしており、「性に基づく区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他いかなる分野」における差別も含むとしています。ここで大切なのは、区別も差別としていることです。
条約第2条で、「締約国は、・・・女性に対するすべての差別を禁止する適切な立法その他の措置をとる」と述べ、第4条で、「事実上の平等を促進することを目的とする暫定的な特別措置をとること」も国に求めています。つまり条約は、法律上の平等だけでなく、事実上の平等をめざしているのです。
Q3 女性差別撤廃条約に性的少数者への配慮が入っていない理由は何ですか?
A 女性差別撤廃条約は1979年に採択されたため、言及していないジェンダー問題は、たしかにあります。女性に対する暴力や性的少数者の問題などです。しかしそれらに対応するために、女性差別撤廃委員会は、条約の解釈を示す「一般勧告」を作成してきています。
現在、1号から38号までの一般勧告が出ており、一般勧告28号(女子差別撤廃条約第 2 条に基づく締約国の主要義務、2010年※)の18項は、条約上の複合差別(女性・民族的マイノリティ・障害者など何重もの差別)の要素として、性的指向と性自認が含まれることを明示しています。したがって、定期報告の審査では、LBT女性に関連する問題が継続的・意識的に取り上げられてきています。ただし、この条約はあくまで女性に焦点をあてているので、ゲイ(G)男性は対象とされていません。(※内閣府のHP)
Q4 選択議定書の批准を望む理由はなんですか? 批准すると日本はどう変わるのでしょうか?
A 選択議定書には個人通報制度があります。選択議定書が批准されれば、女性差別撤廃条約上の権利を侵害された個人が最高裁でも救済されなかったとき、女性差別撤廃委員会に通報できるという道が開かれます。現在まで、日本の裁判所は、女性差別撤廃条約を司法判断の根拠としていません。しかし、選択議定書批准によって、国内の判決は女性差別撤廃委員会の審査を受ける可能性が生まれるため、裁判所も国際基準に照らした判断をせざるをえなくなります。国内の裁判に人権の国際基準が反映されることになり、日本の司法判断を変える可能性が生まれます。
Q5 現在、選択議定書を批准している国は何か国ですか?
A 女性差別撤廃条約締約国189カ国中、選択議定書を批准している国は114カ国(2021年10月現在)です。OECD加盟38カ国中、30カ国が批准しています。アジアで批准している国は、韓国、バングラディシュ、フィリピン、ネパール、モンゴル、東ティモール、スリランカ、タイ、トルコ、アルメニア、カンボジア、モルディブです。
Q6 選択議定書批准国では、個人通報制度によってどういう課題が解決されましたか?
A 個人通報は、2021年2月現在、40カ国に対する165件が登録されています。その内訳は、受理不能67件、権利侵害なし7件、権利侵害あり41件、審査終了(審査できない件数)16件、審査中34件です。
委員会が「条約違反あり」とした通報の約半数はDVなどジェンダーに基づく女性に対する暴力であり、他にも、雇用における差別、司法におけるジェンダー・ステレオタイプ、性と生殖に関する健康と権利の侵害などの事案があります。
Q7 批准した場合、国連の介入で日本の司法制度が揺るがされるのではないでしょうか?
A 個人通報が受理され、女性差別撤廃委員会により審査された結果、最高裁判決と異なる「見解」が出ることはありえます。しかし「見解」は締約国に向けて出されるのであり、最高裁に対して判決内容の修正を迫るものではありません。
国は「見解」に対して、6か月以内に回答をしなければならず、もし「見解」の受け入れが難しい場合には、委員会とのフォローアップ協議が継続します。最終的に受け入れ不可となれば、審査は終了するため「見解」を強制する仕組みはありません。ただし、「見解」を受け取った多くの国は、これを尊重し前向きに対応しています。
Q8 女性差別撤廃委員会から補償などの勧告が出た時に担当する国の機関はどこになりますか?
A 担当する機関をどこにするのかという問題は、各国ごとに異なっており、それぞれの国が自国内で決めています。
日本では、まず選択議定書を批准することが先決であり、個人通報された場合に、委員会の「見解」に対応して可能な措置等を決めればよいのです。窓口は外務省ですが、個人通報されたテーマによって担当する省庁は変わることになります。
Q9 批准の前に国内法の改正や整備をすべきであり、順序が逆ではないでしょうか? 憲法改正が必要なのではないですか?
A 選択議定書を批准するために法改正をする必要はまったくありません。日本は条約をすでに批准しており、それを完全に履行するためには選択議定書を批准する必要があります。条約を批准しながら選択議定書を批准しないのは、法律は作るが守らないと言っているようなものであり、むしろ批准しないことのほうが条約批准国として不誠実です。
憲法改正はまったく必要ありません。
Q10 他の人権条約でも個人通報制度は導入していません。女性差別撤廃条約の選択議定書だけを批准していいのでしょうか?
A 個人通報制度を導入しないことはむしろ締約国の条約遵守義務を満たしていないといえます。他の人権条約の選択議定書も批准すべきですが、女性差別撤廃条約の選択議定書を先行して批准することもありえます。現に条約上の権利侵害を訴え、最高裁まで行っても救済されない多くの女性たちが選択議定書の批准を待っています。
Q11 まだ受入れ体制が整っていないのに時期尚早ではないでしょうか。この課題は国が進めるもので、地方議会にはなじまないのでは?
A 外務省・法務省を中心とした省庁横断的な個人通報制度の研究会が開始されてから、すでに20年以上が経過しています。決して時期尚早とは言えません。女性差別撤廃委員会は、日本政府に批准を促す勧告を何度も行っています。
地方議会は、地方自治の観点から住民の意思として国会に対して批准の承認をするよう要望しているのであって、国の権限を侵害しているわけではありません。地方議会の意思を示すことは、政府や国会を動かす力になります。
Q12 全国の地方議会で意見書が採択されたあとはどのような展開になりますか?
A 採択された意見書は国会に提出されます。条約の承認は国会の議決事項であり、選択議定書の批准は国会の承認が必要です。国会議員は各地方から選出されており、地元の意向を無視するわけにはいきません。それだけではなく、国会議員には、批准承認への住民の要望を真摯に受けとめ、批准を実現するために尽力する役割があります。
Q13 個人通報するにはどうしたらいいですか?
A 個人通報制度を利用するには、国内救済措置が尽くされていることが必要です。
日本では、裁判に訴えた結果、最高裁でも権利侵害があったと認められなかった場合に、委員会に通報することができます。通報は個人でも集団でも可能です。これからの裁判では、当初から女性差別撤廃条約の規定を援用して主張していくことが重要です。 最高裁でも権利回復されなかった選択的夫婦別姓裁判の当事者、男女賃金差別裁判の当事者、婚外子を差別する戸籍の記載の撤廃を求める当事者たちが、選択議定書の批准を待っています。